パリの窓から(48) 2018年5月9日レイバーネット日本掲載



マクロン(をこきおろす)お祭り ~
「改革」に抗議するフランスの社会運動







 

 

 日本ではほとんど報道されないが、フランスでは3月末から、マクロン政権が進めようとする複数の「改革」に抗議して、大規模な社会運動が繰り広げられている。国鉄SNCFでは4月3日から、週のうち2日間の罷業を3か月続ける新しい形のストライキを継続中(6月末まで)。郵便局や病院など公共部門、介護つき老人ホームやエールフランスなど民間企業の一部でもストが行なわれ、一部の大学が封鎖され、デモが繰り返されている。

 国鉄を公共企業から株式会社に変える、大学入学資格に選別システムを導入する(これまではバカロレア試験に通れば、どの大学・学部でも志望できた)など、マクロン政府が事前の議論も十分な国会討論も提供せず、矢継ぎ早に持ち出した改革は、ネオリベラルな政策である。国鉄の改革はEUが命じる自由競争(2021年頃から導入)に備えるために必要であり、民営化ではないと政府は主張するが、フランス・テレコムやフランス電力・ガスの形態変更が後に民営化につながった前例を見れば、「公共サービスを守り続ける」という首相や大臣の約束は信用できない。フランス国鉄はたしかに多額の負債(545億ユーロ、約7兆円)を抱えているが、これは高速鉄道TGVなどの出資を国鉄だけに負わせた歴代政府の政策によるところが大きく、政府やメディアで強調される「特権的な国鉄職員の規約」(財政に影響するという含み)のせいではない。

 

 これらの改革に共通するのはまた、労働組合などの当事者(大学の教員、従業員、学生組合)、識者との協議をせず、性急に閣議決定されたことだ(国鉄改革は労働法と同様、「政令」で行なわれる)。大統領に当選して以後のマクロンは、キャンペーン中の社会対話を強調する中道的イメージとは真逆の、すべて自分(と少数)で決めて上から押しつける強権的な政治を行なっている(最近ではルイ14世をもちだすほど権力に酔いしれているが、パリ政治学院政治調査センターの世論調査でも55%が大統領を「強権的すぎる」と答えている)。労働組合など歴史的に人々を代弁してきた団体の存在を矮小化し(労働組合も弱体化と分裂が目立ち、いろいろ問題があるが)、政府に好意的な多くの主要メディアを使って、ネオリベラル改革をどんどん進めるつもりのようだ。同時に、空港建設が中止になったノートルダム・デ・ランドに住み着いた人々への弾圧(詳しくは別の機会に述べる)、難民の排除(非人道的な法律可決)、大学を占拠した学生の強制排除など、機動隊・憲兵隊を頻繁に出動させる過度で強硬な治安政策にも、反対派との対話・交渉を拒む姿勢が現れており、ネオリベラル政策をTINAThere is no alternativeこの道しかない)と宣言して強引に進めた、英国のサッチャー元首相を思わせる。


  1年を経過したこのマクロン政治に対して、前述の世論調査によると、否定的な総合評価をする人が過半数の55%いる。不平等の是正については78%もの人が「悪い方向にいった」と答え、富裕層ばかり優遇した税改革などに表される「金持ちのための大統領」という印象は、浸透したようだ。一方、「彼の人物も行動も評価する」という人は32%。これはマクロンの党「共和国前進REM」の基盤である中道派だけでなく、今では大多数の国民が「右派」とみなす彼の政策が、保守支持層の賛同者を増やしたからだろう。実際、支持者には高齢・高収入・高学歴が多い。


  さて、国鉄改革についてはストに理解を示す国民は4047%にとどまるが、ストを行って減給される職員のためのカンパは、100万ユーロ(約1億3000万円)集まった。そして、病院、学校、大学、その他民間企業のさまざまな分野で行なわれているストや抗議運動をひとつにまとめようとする動きが広がり、国鉄職員と学生がいっしょのデモも行なわれた。そんな中、前回のコラムでも紹介した「フランス・アンスミーズ(屈服しないフランス)FI 」の議員フランソワ・リュファンが、経済学・哲学の思想家フレデリック・ロルドンと共に、組合、政党、市民団体や一般市民が枠を超えて集まる統一デモを5月5日にやろうとよびかけた。その名も「マクロン(をこきおろす)祭り」あるいは「ポトフー祭り」。2万(警察発表)〜55000人(労働組合の数字)を集めた5月1日のパリのメーデーでは、労働組合は統一デモを組めず、メディアはブラック・ブロックの破壊行為ばかりを報道した。近年のデモや抗議運動では、ブラック・ブロックと機動隊の暴力的な応酬が激化している。政府とメディアは反対派の運動を少数の暴力的な行為と同一視し、市民の拒絶反応と恐怖を煽ろうとする。だから、平和的でお祭りの雰囲気があふれる路上の民主主義を、市民が取り戻す必要があった。


 そして5月5日、それは見事に成功した。素晴らしい晴天と夏日に恵まれた土曜日、お昼からオペラ座前でピクニックとコンサートが始まった。14時からのデモは、オペラからレピュブリック広場を抜けてバスティーユ広場までの行程を、全国から集まった4万〜10万人以上が上機嫌で歩いた。マクロンを茶化す山車とプラカード、ブラスバンド、パーカッション、ライブ演奏・・・カーニバルのような雰囲気に、抗議運動を続ける人々やマクロン政治に反対する市民は、新たなエネルギーを充電した。

 「マクロンが奨励する競争と経済第一主義ではない社会を求める人々が、仕切り壁を越えていっしょに行動することが大切だ」とフランソワ・リュファンは言う。「マクロン、STOP! 」というプラカードをたくさん用意し、全国各地からのバスと列車をオーガナイズした「屈服しないフランスFI 」の代表、ジャン=リュック・メランションは語る。「暴力的なのは、世界6位の豊かな経済のもと、労働事故や労働のせいで死ぬ人や、路上で死ぬホームレスがいるこの社会だ。その社会を根本から変革する『市民による革命』には大勢の民衆の力が必要で、暴力は何もいいことをもたらさない。」

 

 今年の2月と4月に国会や官邸前のデモに参加して、舗道の半分の狭いスペースに閉じ込められる息苦しさを実感しただけに、オペラからバスティーユまでの4,5km を自由気ままに歩けたデモの解放感は、すばらしかった。そして、若者や家族連れ、退職者など多様な人々が大勢参加し、勝手気ままにいっしょの時を楽しんでいるのが面白かった。印象的だったプラカードを一つ紹介しよう。「緊縮を蒔く者は貧困を収穫する」(旧約聖書に出てくる ペルシアの詩、「風を蒔く者は嵐を収穫する」のもじり)。

 この日は労働組合員も個人や支部では参加していたが、政党と共闘を組むことをこれまで拒んでいた労働総同盟CGTの指導部も遂に、5月26日(土曜)に予定されている統一デモへの参加をよびかけた。リュファンは「5月5日は第一ステップ、26日に向けて大きなうねりをつくろう」と呼びかける。マクロンが体現する強力な政治・経済界に対しては、組合も政党も市民運動も自分たちだけでは勝てない。だから仕切りを取り払い、なるべく多くの力を結集してデモをやとうと。呼びかけのチラシにはこうある:「ポトフーは温めるとさらにおいしい!」


     2018年5月8日 飛幡祐規(たかはたゆうき)

 

http://www.labornetjp.org/news/2018/0509pari